私がイギリスのAnglia Ruskin UniversityのMBA学位を取得してから1年半が過ぎようとしているが、最近になってようやく自分がMBAの固定的な思考パターンから抜け出せてきたと実感している。
MBA推進協議会なる会に所属しながらおかしな話だと思われるかもしれないが、MBAは決して万能なツールなどではない。「MBAを取得すればポジションと給料が上がってバラ色だ!」などという、漠然とMBA取得を考えていたときに抱いていたイメージは幻想でしかなかった。
これからMBAの取得を考えている方々には、ぜひ「MBA取得をゴールとしないこと」を心がけてほしいと思う。むしろMBAを取得したら、MBA的思考を脱却するか、あるいはそれをさらに超えて学びを継続していかなければならないということを肝に銘じてほしいと思う。ビジネスを取り巻く環境は絶えず変化し、経営者や管理職層が学ばなければならない知識に果てはないのである。
さて、前置きが少しマイナスな感じになってしまったが、もちろん、MBAを取得するメリットは大いにある。さらに海外大学の第三者認証を得ている学位を取得したことによるメリットも大きい。今回はそれらについて個人的な意見として述べていきたいと思う。
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メリット1.人脈の獲得
MBAプログラムの入学基準は学校によって様々だと思うが、私が学んだAnglia Ruskin UniversityのMBAプログラムの場合、基本的にビジネス経験をある程度積んだ社会人でなければ入学できない。しかも日々ただ漠然と働いているという社会人ではなく、MBA取得により個々にとっての更なる高みを目指している、いわゆる意識の高い社会人が集まっていると言って差し支えはないだろう。
また学習者のバックグラウンド(年齢や職業、場合によっては人種なども)は実に様々で、クラスはいわゆるダイバーシティ―な環境となる場合が多い。
私はIT業界のセールスポジションに属しているが、私の在籍時のクラスには、IT業界だけで言ってもSEやプログラマー、EC事業者、クラウドサービスベンダー等の様々な職域のクラスメイトがいた。
さらにIT業界以外にも、医師や看護師、MR、製薬、医療コンサルなど、医療業界のクラスメイトや、地方・国家公務員、商社、メーカーなどなど、非常にバラエティーに富んだ人員構成だった。
こういった日頃交わることのない、様々なバックグラウンドを持ったクラスメイトとともに、「MBAを取得する」という共通課題に切磋琢磨しながら取り組んだ日々は、私に新たな視野と視座を与えてくれ、ビジネスの現場だけでは決して得られない知見をたくさんもたらしてくれた。
当時のクラスメイトとはMBAを取得した後も定期的に集まったり、また情報交換を行ったりして、今も交流は続いている。MBAといういわば「共通言語」を解する同志との人脈を得たことは、学位取得とともにほかの何事にも代えがたい財産となった。
メリット2.キャリアアップのための武器の獲得
次に、MBA学位を持つということがいかに転職において有利に働くのかということを説明したい。
世界最大級のビジネスSNSであるLinkedinに登録しているビジネスマンは多いと思うが、取得学位に「MBA」を追加することによって、圧倒的に増えるのがヘッドハンターからのつながり申請だ。また私が取得したMBAはAnglia Ruskin Universityという英国の大学の学位なので、申請は日本に限らず世界中から届く。
Anglia Ruskin Universityは150年以上の歴史を持ち、世界中で24,000人ほどの学生が現役で学ぶ国立の総合大学だが、当然OG・OBも世界中に存在しており、著名な外資系企業のほとんどにはOG・OBが在籍していると言っても過言ではないだろう。当然ヘッドハンターのなかにも卒業生がいる。ヘッドハンターは膨大なLinkedinの登録者の中から、何かしらの関連性をSortして人材を探しているわけで、Anglia Ruskin Universityの卒業生という共通項だけでもかなりのオファーがあった。
次に面接での強みについてだが、他の候補者と同じようなキャリアがあって比較されたときに、英国のMBAは非常に大きな武器になった。なぜなら、まだまだ日本で英国大学のMBAホルダーは非常に少ないため、日本の転職市場ではかなり希少性の高い学位所持者と言える。同じようなキャリアを持っている候補者で比較された場合に、かなり優位に差別化をすることができたと断言できる。
メリット3.DBAへのパスウェイの獲得
序文でMBAホルダーには更なる学びが求められると述べた。これはMBAホルダーならば誰もがことの大小はあれ実感することではないだろうか。
MBAホルダーが更なる学びを求めたとき、直系の上位学位としてDBA(MのMasterに対してDはDoctorを示す)というものが存在する。MBAの取得者にはこのDBAへのパスウェイが開かれることになる。
日本では第三者認証のない、いわゆる自称MBAも含めてだが、年間約1800名程度のMBA取得者が生まれると言われている。この毎年1800人という数字をどう見るかだが、いずれMBAホルダーも他者との差別化のためにDBA取得を目指すことが一般化するかもしれない。
日本の既存の学術制度では、DBAへのパスウェイが一般的なものだとは言いづらい。だが国際的にみるとDBA学位の認知は着実に進んでおり、このことからも日本の学術制度のガラパゴス化が垣間見られるわけであるが、英国の第三者認証MBAを取得したことで、DBAという更なるパスウェイにも目を向けられるようになったことは、自身のキャリアにおいても非常に重要な意味を持つことだったと実感している。
以上、私が英国の第三者認証MBAを取得して感じたメリットを思いつくままに書いてみたがいかがだっただろうか。しかしながら、これらのメリットを享受し続けるためにはMBAホルダーが学位取得後も絶えずMBAの価値について模索する必要がある。「MBA取得をゴールとしないこと」、このことを再度お伝えしてこのコラムの結びとしたいと思う。
文:土屋秀登/Hideto TSUCHIYA Anglia Ruskin University MBA 一般社団法人MBA推進協議会 理事 プロフィール: 専門分野:IT / インサイドセールス 新卒で株式会社光通信へ入社し、営業についての基本的な概念を学ぶ。その後、外資系企業5社での営業経験を経て外資系企業でのインサイドセールス立ち上げ、運用スキーム構築を経験する。現在はアメリカIT企業にて、顧客の経営課題に対してITソリューションによる課題解決を図る事業に従事する。 |