背景

2016年10月よりリクルートホールディングスは全社員を対象に、在宅勤務制度をスタートさせた。

インターネットの環境が整ってきたことや、スマートフォンタブレット、さらにはそれを活用したコミュニケーションツールの進化や技術の発展により今まで職場で行っていた事が自宅でできるような時代になってきている。

それと共に地球環境全体を取り巻くエネルギー問題は途上国の発展と共に今後さらに問題化していき、いかにエネルギーを消費しないようにするか、少ないエネルギーでいかに生活が出来るようにするのかを真剣に考えなければならない時代でもある。

そのような時代背景から、リクルートホールディングスのように企業や人々がICT(情報通信技術)を活用した、場所にとらわれない柔軟な働き方を選択し、日々職場へ通勤するのではなく自宅で仕事を行うという在宅勤務型の社会へと変化することも考えられる。

今回はそのような在宅勤務型となった社会における住環境のあり方について検討してみた。

【図1】
企業におけるICT(情報通信技術)の導入率推移
(出典:総務省HP  ICT環境の浸透とテレワーク)

第1章 在宅勤務と間取り

1-1.ワークスペースと課題

在宅勤務となり、明日より職場に行かなくなり自宅で仕事をすると考えた時、一番困るのがその「ワークスペース」である。一般的には、余っている部屋をワークスペースに使うことになる。子供が小さい場合は子供部屋がその役割を果たす事になるだろう。

ただ、多くの家で余っている部屋があるわけでもない。それなりに大きな子供がいる家庭は、取りあえずパソコンが出来る小さなスペースを見つけて仕事する事になるだろう。私たちが提供している暮らし(間取り)提案の中にもそのような暮らしに密着したワークスペースを提案することが多い。ただそれは在宅勤務でなく帰宅後や休日にやり残した仕事をする場合を想定していることが多く、ダイニングや2階ホールスペースまたは寝室の片隅などを活用する事等で対応が可能である。いざ本格的に「一日仕事をする」在宅勤務となるとこのようなスペースで仕事をする事の障害が多々出てくることが考えられる。

【図2】
寝室の片隅にあるワークスペース(自作)

例えば上記図2のような寝室の片隅に仕事場スペースを設けた場合、バルコニーの洗濯物の出し入れやお出かけ前の着替えなど仕事をしている横で活動する奥様に気を使わすことになる。又、夜寝る時も横に仕事スペースがある為ゆっくりと休むという感じにはならないかもしれない。

このように在宅勤務するとき、ずっと家にいることで今までになかった、「家族との向き合い方」や「仕事とプライベートとのオン・オフの切り替え」をどううまくできるのかというような課題があげられる。

その場合、課題を解決する為の方法として、多くは仕事部屋つまり書斎やSOHO(Small Office Home Office)のような空間を家のどこかにつくる事を検討する事になる。

1-2.書斎のあり方からSOHOを考える

SOHO(Small Office Home Office)とは名前のごとく自宅の小さな仕事場であり、書斎のような読み書きをするスペースとは少し違う感じもするが(実際、書斎は英語ではStudy)書斎のあり方を調べる中で、SOHOにとって必要かつ重要なポイントを検討してみた。

「こもる」ことができる

仕事に集中できる空間をつくるために自分だけの「こもれる」空間をつくり他の人の出す音などに邪魔されない時間をつくることが大事である。

まさに自宅で仕事がなかなか出来ない大きな理由はこれではないかと思う。もちろん家の中からの音も考えられるが、意外と家の外からの音も気になる。今、私が暮らしている住まいの前でも平日は建築工事を行っており、平日自宅で仕事をしようとするとなかなか集中できない。そんな時はついつい図書館に逃げ込んでしまう。

「スイッチを入れる」ための仕掛けがある

自分自身を切り替えることができるコトやモノを通じて「集中のスイッチを入れる」ことができる空間にする。日々の生活習慣の中で勝手に集中のスイッチの切り替えをしている人も多いと思うが、私は電車の中でスイッチを入れ替えることが多い。特に駅に着いた時に完全に仕事モードに変わる。在宅勤務になるとその切り替えができる習慣や仕掛けが必要になってくる。

「リラックス」できる

集中して良い仕事をするためには「リラックスしている状態」が大事。自分のお気に入りの空間に囲まれることも一つの状態ではないか。単身赴任の今の私の暮らしは完全に自分のお気に入りのものに囲まれており、仕事から帰ってくると完全にリラックスできる。職場でも周りにお気に入りのもの(例えばコップや文房具など)を置いたりして自分の一番リラックスできる状態にしている人も多いのではないか?(机の周りがモノにあふれている人も多いが…それもその人なりのリラックスできる空間なのかも。)

この3つのポイントをSOHOにとって必要かつ重要なポイントとした時、例えば自宅の屋根裏をうまくSOHOにするというのはどうだろうか?屋根裏部屋は天井も低く、こもるという感覚がぴったりくる。又生活しているフロアとの距離もあり階段の昇降でのオンとオフの切り替えなども可能である。ただし大きな窓が取れず、空間の明るさと夏場の温熱環境に課題がある。可能であれば、天井やエアコンを小屋裏に設置するなどの対応で最高のSOHOが出来上がる可能性がある。余談ではあるがセキスイハイムはフラット屋根の商品が多いが、ツーユーホームは屋根があり、温熱環境も高く屋根裏空間をさらにアピールするポイントとして開発・進化させて行くべきだと思う。

【写真1】
屋根裏空間をこもれるスペースとした空間例
通風天井からの光と風で明るさを取り込んだ屋根裏空間
(出典:セキスイハイム グランツーユースマートパワーステーションより)

1-3.家族と仕事のつながり

家で仕事をする場合、切っても切り離せないのが「家族」とのかかわりである。

在宅勤務になる事のメリットはたくさんあるが、個人的に最大のメリットは「家族と過ごす時間が少しでも多くなること」ではないかと思う。

特に子育てに関しては、自分自身が現在単身赴任中でもあり、育児をほとんどまかせっきりになっているという現状から痛感するところが大きい。在宅勤務になれば是非家族とのコミュニケーションを多くとりたいと思う。

ただ、家にいる時間が多いからといってコミュニケーションをとってばかりという訳にもいかない。そこはやはり先ほども書いた通り「集中のスイッチを入れ」メリハリをつけ家族を養うための仕事をしっかりとしなければならない。つまり、在宅勤務の暮らし(間取り)のポイントは「家族とのコミュニケーションをとりつつ、メリハリをつけて仕事をしっかりとできる空間計画」なのではないかと思う。そう思うと仕事場は2階や屋根裏ではなく1階の家族が集まるリビングの横に作るということも考えられる。

【図3】
リビングに隣接したSOHO。仕事をしながら家族の気配を感じることが出来る間取り
(出典:奈良登美ヶ丘グランツーユー展示場)

図3のような間取りの場合、家族とのコミュニケーションはとりやすいが、先程SOHOのポイントである「こもる」こと及び「集中のスイッチ」が課題となってくる。

又、リビングでTVや掃除機など大きな音を立てる事ができない事は家族にストレスを与えてしまうかもしれない。対策としては防音ドアなどの遮音対策を行うことになるのだが、そうした場合、リビングの横に隣接させコミュニケーションをとりやすくするという事から離れて行く。

又大事な書類やデータなど子ども達が入ってきて散らかされる可能性もある。鍵を付けてしまえばいいのだが本末転倒の話である。

では他にどこかいいスペースはないのだろうか?

例えば家の出入り口である玄関に隣接してSOHOスペースをとってみるのはどうか?

【図4】
SOHOのある住まい
(出典:三菱地所の自由設計マンション「スタイルハウス」)

図4は玄関を入り、本来なら洋室や和室などの一室となるスペースをあえて土間続きにしてSOHOをとった一例である。この場合居住スペースと完全に分かれているので家族に対する負担も少なくてすむ。又玄関から帰ってきた子供たちや奥様のお出かけの際に「おかえり」「いってらっしゃい」などのコミュニケーションもとりやすい。急な来客の際も対応出来そうなのだが、欲を言えば破線部分に室内窓入の仕切りを設ければ「こもる」ことが出来るとともにコミュニケーションもとれるのでより良いスペースになるのではないか?

【写真2】
室内窓入り間仕切りの奥のSOHOイメージ
(出典:リノベりすHPより)

玄関ドア風のドアがあればさらにこもる感が増すのとオンとオフの切り替えがうまくできそうである。

第2章 在宅勤務と街づくり

2-1. 立地条件と街の仕掛け

在宅勤務型社会が進んだ場合の街づくりはどうなるのか?
オフィスと同じ環境が自宅にあり、ほぼ職場へ行く必要がない在宅勤務の場合、人々の望む立地条件は、現在の優先順位の上位の常連である職場や駅からの距離は当てはまりにくくなる。子育てや家族とのコミュニケーションの方が大事となった場合、優先順位の上位には緑に囲まれた住環境などがたちまち上がってくる可能性が高い。

庭でバーベキューや家庭菜園ができるスペースがあり空気のきれいな静かな場所の価値が高くなってくる。

そうなれば街づくりの骨格は都会の喧騒から離れた「ココロにもカラダにもやさしい緑ある暮らし」になるだろう。

【写真3】
セキスイハイムが作る“木の家”の街
(出典:セキスイハイムの木の家の街「ライフスタイルブック」より)

暮らしに緑があふれることのメリットは他にもある。

家にいる事が多くなる在宅勤務の場合、ご近所とのコミュニケーションも今以上に増えてくる。庭に咲く草花や家庭菜園でとれる野菜など、「コミュニケーショングリーン」は町をつなぐあたたかな絆が広がる街づくりの基礎になる。

又、仕事の休憩時間に自然豊かな街を散歩すると気分転換になる。そういう意味では街に散策できる散歩道や散策公園などの街の仕掛を作っておくと街の価値はさらに上がる。もちろん街の中だけではない。近所の山や川そして海や湖など、元々そこにある自然に寄り添った暮らし方の提案があればさらに街の魅力が増してくる。

在宅勤務の街づくりには「家族や近隣とのコミュニケーションがとれる環境」と「仕事に集中できる環境」、「そしてうまく気分転換できる環境」の3つが重要でそれをサポートする街の仕掛が必要になってくる。

家族と街の中の散歩道を散策するイメージ

2-2.公共スペースを有効活用した街作り

第1章で在宅勤務になった時の間取りと暮らしを検討してきたが、ワークスペースをどこに設置すべきかなかなか難しい。そんな時、街の公共スペースをうまく活用したワー クスペースがあったらどうだろうか?

最近、ビジネスモデルの中にレンタルオフィスが確立されつつある。現在のレンタルオフィスは起業や創業する為の入居者支援や会社の支店や営業所などの事務所としての役 割が大きく、在宅勤務の人がわざわざ家賃を払って借りるということは少ない。

そんな中、『コワーキング(Coworking)』という新しい働く環境がある事を知った。

コワーキングとは事務所や会議室、打ち合わせスペースなどを共有しながら独立した仕事を行う共同ワークスタイルのことである。実務を行う場所が個室ではなく図書館のようなオープンスペースを共有したり、イベントを行ったり参加者同士のコミュニティー育成を重要視する傾向が強い。

在宅勤務において直面する孤立感という問題を解決すると同時に、家庭で働く事による集中力低下となる材料を回避する事も出来る。(「コワーキング」Wikipediaより)実際に東京赤坂にあるコワーキングスペースの資料を取り寄せてみた。

【写真4】(東京赤坂にあるHatch Cowork+Kidsのパンプレット)

写真4の真ん中の緑のスペースがコワーキングスペースで様々な業種の人々が仕事をしている。プリンターや文房具 などのオフィスグッズも揃い持ち寄った本などは皆でシェアできる。

【写真5】
コワーキングスペース 明るく大きな空間
(出典:Hatch Cowork+kids HPより)
【写真6】会員同士の情報交換や告知ができるコミュニケーションボード(出典:Hatch Cowork+kids HPより

又、コワーキングスペースに隣接する写真4の赤い空間が 「IDOBATA」(写真7)という10名ほどが囲める大きな 円卓があり、集まってくる人々の会話を生み出すコミュニケーションスペースとなっている。様々な情報交換ができ、新しいアイデアなど交流を通じて生まれる事も考えられる。

又、黄色のスペースは保育補助スタッフの在中する「キッズルーム」(写真8)となっている。子育て中の方も安心して仕事に集中する事ができるとともに、このスペースを使った子ども向けパーティーなどイベントも開催できる。

【写真7】
コミュニケーションスペースの「IDOBATA」
【写真8】キッズルーム
(出典:Hatch Cowork+kids HPより)

このようにコワーキングスペースは非常に興味深い場所であるが、前述したとおり、もしこのようなスペースが街づくりの中で共有するスペースとしてあったらどうか?

例えば集会所にこのようなコワーキングスペースの機能を組み込んだり、まちの新しいコモンスペースとして活用したり。都会のビルやオフィスではできない「土いじり」などの作業も街の集会所やコモンスペースの場合は可能であり、さらに仕事の休憩の合間に散歩道でリラックスできるという価値を追加することができる。自分の住む街の中にこのようなスペースがあればちょっと歩けば行けるし、その間に仕事への集中のスイッチをいれることもできる。

価値観の似通った人たちが集まり、コミュニケーションを通じて仕事や子育てを充実させて行くコワーキングスペー スは小さな街をつくっている事に近いような気がする。

そういう意味では新しい街づくりの中に取り入れていってもよいし、もし未来に在宅勤務型社会がくれば非常に魅力的な街になるのではないだろうか?

維持管理や費用の点で問題点はたくさんあるが、ある一定以上の大きな分譲地の場合、建物でのライフスタイル提案とともに街の維持管理組合の下、このような在宅勤務家族に向けたコワークスペースを特徴とする街づくりを検討してもよいのではないかと思う。

最後に

今回、色々と調べる中で、実はまだまだここ日本では在宅勤務の人口や企業が少ない事がわかった。

従業員の労務管理や評価制度又従業員同士のコミュニケーションなど企業が在宅勤務を取り入れる為にはまだまだ超えなければならないハードルはたくさんある。

ただ、冒頭述べたようにICTを利用した在宅勤務という環境整備は近い将来さらに大きく表面化してくる地球規模の環境問題や、世界トップクラスの日本の人口少子化問題、首都圏に一極集中している地方の過疎化問題。さらには希薄になってきている人々のコミュニケーションなど様々な問題解決の一つになる可能性がある。

そして又、現在の家庭環境の中でも共働き夫婦が増え、子育てをしながら働く女性もかなり多くなっている。そんな働く女性も子どもが小さく手間のかかる時期には在宅勤務という労働環境は非常に魅力的である。

そんな働く女性を対象にした暮らし提案も徐々に増えてきている。ただ今回のように家だけでなく街づくりも含めた中で具体的に進めている例は少ない。

住宅メーカーの商品企画をしている者として、街づくりも含めてこのような家族の新しいライフスタイルを今後さらに提案していこうと思う。

参考・引用文献

1)「ICT環境の浸透とテレワーク」 総務省ホームページ
2)「あたらしい書斎」 いしたにまさき
3)「スタイルハウスとスケルトンハウスが出会った自由設計 マンションプロジェクト」 無印良品の家ホームページ
4)「Hatch Cowork+kids」会社紹介及びホームページ


文:梅本 太一
セキスイハイム近畿(株)

【リンク】
セキスイハイムの「テレワーク」のカタログ請求ページ
グランツーユーV
メグリエのセキスイハイムHP
※メグリエでは6月よりSOHO(書斎)付きの建物を販売開始を予定。