私がMBA取得を考えていたころ、とある国内有名私立大学のMBAプログラムの説明会に参加したところ、「我々のMBAプログラムはファイナンシャルプランナーの資格が取得できます。」とPRされたことがある。MBAとは経営に関わる幅広い分野を学ぶ、いわば基礎教養プログラムのはずだが、パーソナルファイナンスに特化した資格が取得できることを最大のメリットのように謳う姿勢に、いかにも日本的なガラパゴスMBAの実態を見る思いだった。

MBAの正式名称は言わずもがな「Master of Business Administration」であるが、今回は「Business Administration」の部分に着目して、少しばかりの考察をしてみたいと思う。

日本ではMBAを単に「経営学修士」と訳す場合が多いが、当会ではMBAのA:Administrationの部分を重視し、MBAの和訳は「経営管理学修士」とすることを提唱している。それは経営を学ぶ上で、このAdministrationの単語が決して外せない、非常に重要な意味を持つためである。

単純に「Business Administration」を直訳すると、それは「ビジネスの管理・運営」となる。ではビジネスの管理・運営に必要な知識とは何だろうか?
ファイナンスを重点的に学べば事足りるかと言えば当然答えはNoだ。ビジネスの管理・運営を行うためには、ファイナンスはもちろんのこと、マーケティングや人的資源管理、さらには統計や経済、リーダーシップスキルやアントレプレナーシップなどの広範な学習要素が不可欠になる。

本来MBAとは、一部の要素に偏重して学ぶようなものではなく、各要素をまんべんなく学ぶ経営の基礎教養プログラムなのだが、なぜか日本では最初に挙げたような、いびつに偏ったMBAプログラムが多く存在する。

一つ誤解のないようにお伝えしたいが、これは決して「ファイナンシャルプランナーの資格」を否定したいという話ではない。私が言いたいのは、MBAはビジネスの管理・運営における広範な知識を身につけるためのプログラムであり、ファイナンシャルプランナーのような特定の専門知識を養うスペシャリスト養成のプログラムではないということだ。

なぜ日本のMBAプログラムにいびつに偏ったものが存在するかを考えると、ひとえに日本では学位を規定するルールが不十分であるという事実に行きつくように思う。例えば英国の場合、QAA(Quality Assurance Agency)という国の外郭団体によってMBAの学位基準が明確に規定され、その規定を満たしたものでなくてはMBAの学位としては認められない。MBAの世界三大認証機関と言われるAACSB、EFMD、AMBAでも、当然のごとくMBAを明確に規定し、国際的な観点からの継続した改善をMBA学習機関に厳しく求めている。

一方で日本はというと、文部科学省は大学等の学部・学科の設置認可は行うものの、特定の名称を持つ学位が「どんなシラバスやカリキュラムで学ばれたものであるか」を規定してはいない。また本来であればその任を負うべきと思われる独立行政法人にも対応する規定がない。そのため日本においては、個々の教育機関が「これが我々のMBAだ」と言ってしまえば、それがどんな代物であろうともMBAの学位として授与できてしまうという驚くべき実態がある。これが「ファイナンシャルプランナーの資格が取れるMBA」といった本質から逸脱したMBAプログラムを日本に跋扈させる大きな要因になっている。
※近年は日本国内でも、第三者による学位評価を重視し、第三者認証を得る教育機関が徐々にではあるが増えていることもあわせてお伝えしておきたい。

日本でMBA学位の取得を考えるとき、そのプログラムが第三者認証を得ているか否かを確認することはとても重要だ。真に「Business Administration」を学びたいのならば、第三者認証を受けたMBAを強くお勧めしたい。そして第三者認証を受けたMBAを取得した暁には、履歴書には日本語で「経営学修士」とは間違っても書かず、「経営管理学修士」、または「MBA – Master of Business Administration」と記載することをお勧めする。自分が取得したMBAが日本的ガラパゴスMBAとは一線を画すものであることを示すために。

文:土屋秀登/Hideto TSUCHIYA
Anglia Ruskin University MBA
一般社団法人MBA推進協議会 理事
プロフィール:
専門分野:IT / インサイドセールス
新卒で株式会社光通信へ入社し、営業についての基本的な概念を学ぶ。その後、外資系企業5社での営業経験を経て外資系企業でのインサイドセールス立ち上げ、運用スキーム構築を経験する。現在はアメリカIT企業にて、顧客の経営課題に対してITソリューションによる課題解決を図る事業に従事する。