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はじめに
前回、「日本企業とMBAホルダーの関係」を当コラムで発表して2年が経過した。また、本年5月には、本会に所属する団塊ジュニア女性が「バックオフィス系業務、中高年の人もMBAに挑戦する価値がある」を発表された。
筆者は39歳、いわゆる中高年に差し掛かる直前にMBAを取得し、現在はDBA取得に向け研究の日々であるが、その合間を縫って、筆者が典型的な日本企業である現在の勤務先に入社後、30年以上バックオフィス系部門に在籍し、MBA取得後にどのような変化が筆者にあったのか、実体験を紹介してみたい。なお、一部内容は本会に所属の団塊ジュニア女性が発表した「バックオフィス系業務、中高年の人もMBAに挑戦する価値がある」と重複する可能性もあるが、そこはご容赦願いたい。
これまでの経歴
私は先にも述べたとおり、30年以上にわたりバックオフィス部門において、いわゆる出納や業績管理を所管する経理部門、庶務、資産管理、危機管理業務を所管する総務部門、さらに工事現場では経理業務と総務業務の全てを担当していた経歴を持っている。
30年以上もバックオフィス業務、私の勤務先では管理部門と呼んでいるが、この部門に長期間在籍し続けることは、私の勤務先では特段珍しいことではない。もちろん、各々の希望や適性に応じ営業部門や開発部門に異動し、管理部門から離れる社員もいる。そんな中、私は一貫して管理部門を希望していた。一言で言えば、営業的センスがないと思っており、勤務先の評価と奇しくも一致していたことが、入社後現在に至るまで管理部門に在籍している理由である。
MBA取得前の業務遂行方法
私がまだ若手と呼ばれる年齢の頃、管理部門での業務をどのように担ってきたのかと言えば、先輩社員からの経験、つまり彼らの暗黙知を伝授され、その真似をするといった、真に原始的な手法であった。その手法で得た暗黙知を、私自身も前例に倣い暗黙知化しており、それを先輩社員同様、次の世代に伝授した。今でこそ「暗黙知」と簡単に言葉を使えるが、当時の私にはこのような表現があることすら知らなかった。換言すれば私だけかも知れないが、全くの無知だったわけである。
次に、業務に対応する際に不明な点が出る場合もある。私の若手時代はインターネットがない時代であり、書籍をベースに調べるしかなかったが、その書籍にしても、単なるハウツー本なのか、或いは真の本質的な問題まで切り込んだ書籍なのか、このような深い点まで考慮して購入することもなかった。そしてインターネットが普及するにつれ、検索サイトにキーワードを入れ簡単に知りたい情報が入手できるようになった頃は、検索でヒットしたホームページを信じ込み情報を得ていた。今にして思えば、かなり信憑性の低い情報を迷わず拾っていた状況であったわけである。
このように、今にして思えばまさに無知、或いは勉強不足、これがMBA取得前の私の実情であった。
転機
こんな私にも転機が訪れる。そのきっかけは私が30歳代後半となり、複数の若手部下を持った時であった。直接部下から指摘を受けたわけではないが、業務の手法は教えられても、私は自らの業務の真の本質を理解しているのか、そしてこれを部下に伝えられているか、と疑問を持ったためである。そして自身のキャリアを真剣に棚卸を行った結果、「事の真の本質を見極める能力に欠けている」ことがようやくこの年齢になって気づいた。
では、この「気づき」を如何に生かし、私の将来の管理部門におけるキャリアに繋げるか、をいろいろ模索した結果、「再度学び直すしかない」の結論に達したわけである。勉強といえば、すぐに「資格取得」が頭に浮かぶが、例えば宅地建物主任者試験に合格し資格を得たとしても、それを活かす場が管理部門にはない。そこで大学生時代に経営学を学んでいたこともあり、これをさらに深く学び、「事の真の本質を見極める能力」を自分のものにするため、MBA取得の決断に至った。
ここから学校選び、つまりビジネススクールの選択となるわけだが、私は当時から首都圏在住ではなく地方都市在住であり、この場所での通学制を選択した場合、ビジネススクールの数は極めて限定される。また、日本のビジネススクールでMBAを取得し、当初の目論見である「事の真の本質を見極める能力」が身に付いたとしても、その学位は世間に通用するか否かも重視し、ビジネススクールを注意深く調査した。その過程で「茨の道を歩むなら海外MBAではないか」との結論に至り、また通学せずとも、いわゆるオンラインで授業に参加可能で、海外MBAが取得可能なスクールを選択した。
現在は多くのビジネススクールがオンライン授業を行っていると思うが、私がMBAに挑戦した当時、オンラインで授業を実施し、海外MBAを取得できるビジネススクールは殆ど選択肢がなかったと記憶している。この判断は今でも間違っていなかったことは、本会ホームページに記載の「MBAとは(国内MBAの現状)」に詳しいのでそちらに譲ることにし、以下「MBA」と記述するのは海外MBAと指すものとする。
MBA取得後
論文執筆も終わり、2年後に私は無事MBAを取得した。この期間で得られたものは、多くの知識もそうだが、モノの考え方には多くの切り口があり、これを有効に活用することで、当初の目的であった「事の真の本質を見極める能力」に加え、文科系出身の私には不得意であった「論理的思考力」を同時に身に付けることができた。その一例は、本会に所属する団塊ジュニア女性の寄稿を引用させていただくと、「「Google Scholar」等のより学術向けで「信頼できるソース」からの論文情報等を得られる」ことである。
MBAの学位請求論文は、提出したビジネススクールにおいて厳しい査読を受け、この査読を通過し、学位請求論文としてふさわしいと認められた時に、初めて学位が授与される。勿論、引用文献は学術論文、つまり源流(先行研究)まで遡ることが求められることは言うまでもない。この論文執筆の経験から、私は「何事も物事を調べる際は源流まで遡る」、つまり信頼できるソースから情報を得て、事の真の本質を見極め、暗黙知については形式知化し、私も含めた各々社員の持つ暗黙知を公開する等を行いながら、引き続き管理部門に勤務している。蛇足ながら、暗黙知を形式知化し公開したことで、業務効率化にも繋がるという副次的効果を生むこともできた。
また管理部門は、その性格上、業務や成果主義の目標を「定量化」することが難しい。しかし、MBA取得後に部下として仕えた上司の中には、この「定量化」を求めてきたこともあった。社会人として働き始め、経験と暗黙知、さらには社内でしか通用しない知識をベースに生き延びてきた社員は、この上司が求めた「定量化」ができず苦労していたが、既に定量化について学んでいた私はこの意味を理解し、上司の期待に応えることも可能だった。全ては2年間苦労した成果である。
但し、だからと言って会社が私の処遇を変えることはなかった。何故処遇を変えなかったか、については、2年前に本会ホームページ上で公開した「日本企業とMBAホルダーの関係」に詳細があるので、こちらをご覧いただきたい。
最後に
これまで縷々私の経験を述べてきたが、MBAを取得しても、時間の経過とともに、当時得た知識はどうしても忘れてしまうが、知識は忘れれば、改めて勉強すれば取り返しができる。然るに当初私が目指した「事の真の本質を見極める能力」と「論理的思考力」は、身に付くまでの時間は必要な反面、一度身に付くと忘れることはない。惜しむらくは、先述した上司のような者が日本企業において極めて少ないことで、これが外資系企業との決定的な違いである。換言すれば、敢えて言うが、「MBAホルダー」が日本企業には少ないとも言える。
ちなみに、先述の上司はMBAホルダーではないが、過去にある公益社団法人に出向した経験があり、ここで経済予測や金融研究に携わった、私の勤務先では異色、かつ非常に稀な経歴を持つ方だった。
バックオフィス、つまり管理部門は普段から表に出ることのない地味な部門であり、昨今は管理部門を「アウトソーシング」する話も聞くが、いずれにしても企業を運営していく上で、欠けてはならない部門であり、MBAを取得するメリットもある。もしMBAに興味があり本会ホームページを訪問、さらに管理部門に所属している方々が本コラムに目を通され、MBA取得の一助になれば幸いである。
引用文献
団塊ジュニア女性(2023), 「バックオフィス系業務、中高年の人もMBAに挑戦する価値がある」
(閲覧日,2023年8月10日)
文:秋元純一/Junichi AKIMOTO 一般社団法人MBA推進協議会 理事 University of Wales MBA, DBA Candidate 大手建設会社へ事務職として入社。 入社後は庶務、経理、会計、危機管理等、多様な業務に携わり現在に至る。 2008年3月 University of Wales MBA課程修了。 2020年1月よりDBA Candidateとして、University of Information Technology and Management in Rzeszowに在籍中。 |