初秋の候、皆さまにおかれましては益々ご健勝のことと存じます。平素より、当協議会の活動に格別なるご理解とご支援を賜り、心から御礼申し上げます。
2025年6月より前任の代表理事の土屋氏に代わり、当協議会の代表理事を務めさせていただくこととなりました城戸崎祐馬と申します。肩肘を張らずMBAという学位を社会に適切に還元すべく、有志で集まっている当会のスタイルを遵守すると共に、改めて「MBA」という学位の価値、そしてそれを取り巻く社会・企業環境の変化を踏まえて、新たなステージへと歩んでいきたい所存です。
Table of Contents
1.変化の激しい時代における「MBA」の再定義とは
近年、経済・技術・社会構造はいわゆる「VUCA(変動 Volatility/不確実性 Uncertainty/複雑性 Complexity/曖昧性 Ambiguity)」の時代と呼ばれる環境に耳慣れました。従来のような「前例に学び、同じ業務を繰り返す」というキャリアモデルは、一層通用しにくくなってきました。こうした環境下において、「管理/統制」「経験知」だけでは先を見据えて動くことは難しく、むしろ、変化に対して敏速に思考し、複数の領域を横断的に理解し、かつネットワークとともに価値を創出していく能力が重要性を増しています。
そのようななか、MBAはただの「学位」ではなく、「マネジメント・思考・変革」のスキルを体系的に習得し、それを実務で活用できるように鍛錬する場であると言えます。グローバルにおいてもMBA取得者は「世界市場を俯瞰する視野」「多様なバックグラウンドを持つ仲間とのネットワーク」「高度なコミュニケーション能力」を身につけるとされています。 また、「経験だけでは対応しきれないビジネスの複雑性・不確実性」に対して、MBA学位が有効な投資であるとの報告も出ています。
つまり、これからの競争社会・経済社会において、MBAとは「選ばれた装飾的な称号」ではなく、「変化に対応できるマネジメント・パラダイムを持つ人材」を育成・証明する手段であり、また取得後も継続的に能力を活用・刷新し続けるためのプラットフォームであると位置づけられます。
2.日本におけるMBAの現状と課題
当協議会が掲げる目的の一つは、国内における「MBAに対する正しい理解」を促進することです。 日本では、海外発祥のMBA制度が導入され早や数十年が経過しているものの、制度の背景・学びの構造・実務活用のあり方などに対する理解は、必ずしも十分とは言えません。例えば、「MBA=転職・昇進の魔法の杖」と捉えられたり、あるいは「形式的な学位取得に過ぎない」と位置づけられていたりするケースも見受けられます。しかし実際には、MBA取得後に得られるものは以下のような要素が中心となっています。
- ビジネスの基盤となる会計・財務・マーケティング・戦略・組織論などの体系的知識
- 異業種・異文化・異地域の学習者・卒業生とのネットワーク
- ケースメソッドやプロジェクトワークを通じた実践的思考・意思決定力
- 変化対応力・クロスファンクションでの視野・リーダーシップ(変える側/変わる側双方)
これらのうち、特に「実務に使えるか」「取得後に何をするか」が問われており、単に「MBAを取る」こと自体が目的化してしまっては、真の価値を得ることは難しいという指摘もあります。
また、国内企業・組織においては「学位取得=昇進・報酬拡大」という構図が必ずしも明確ではないため、MBA取得者側において自らの学びを「キャリア・組織・社会貢献」にどう結びつけるかが、今後ますます重要になってきています。
3.当協議会が果たすべき役割
以上を踏まえ、当協議会は次の3つの柱を中心に活動を展開してまいります。
(1)理解促進・価値向上
当協議会の設立趣旨にも謳われている通り、MBAという学位・学びの価値を正しく社会に発信し、その理解を深めていくことが不可欠です。 このため、会員・学習者・学校・企業をつなぐ情報発信を強化し、「MBA取得後に何ができるか」「MBAをどう活かすか」を考える場を創出してまいります。
(2)学習支援・ブラッシュアップ機会の提供
MBA取得を志す方、また既に取得された方に対して、学び続けるための支援を拡充します。具体的にはオンラインサロンや実践セミナー、学び直しの機会、取得者同士のディスカッション機会の提供といった仕組みを進めています。 このような場を通じて、MBAの知識を“眠らせず”、実務・社会に活かし続けるための環境を整えてまいります。
(3)ビジネス機会創出・ネットワーキングの促進
MBAホルダーおよび学習者を核としたビジネスの創出・連携を支援します。会員からの新規事業提案を受け付け、プロジェクトチーム運営・事業化に至るまでのプラットフォーム化を目指しています。 また、MBA取得者同士、そしてさまざまな企業・行政・教育機関とのネットワーキング機会を増やし、学位を活かした社会実装をより積極的に後押ししてまいります。
4.これからの競争社会においてMBAが求められる理由
なぜ今、MBAが「これまで以上に価値を持つ。」と明言できるか。その理由を3つ挙げて整理します。
① 複雑性・スピードが増したビジネス環境への備え
生成AIの出現、デジタル化、グローバル化、サステナビリティといったテーマが同時並行で進展する現在、企業に求められるリーダー像も、「専門領域だけ知っていれば良い」から「複数の領域を横断し、変える/変われる」へとシフトしています。MBAでは、専門知識だけでなく、意思決定・チームワーク・変革マインド・新たな価値創造の観点から学びを深めることが可能です。米コーネル大学は、「MBAはキャリアを将来にわたって守るための投資である」として、変化対応力・リーダーシップ・ネットワークの構築を重視しています。
② キャリア転換・成長機会のプラットフォーム
現代では「いくつかの会社で定年まで勤めあげる」という人生設計が必ずしも一般的ではありません。キャリアの途中で業界を変える、起業を志す、海外で活躍するという選択肢が増えています。MBAはそのような「次のステージ」に飛び出すための時間・場所・仲間・知識を提供します。例えば、MBA取得後に転職・起業・海外移動を実現したという声は多く、取得者自身が「キャリア地図を再設計する契機になった」と語っています。
③ “学び続ける”こと自体が差異化要因に
AIやデータサイエンス、DX(デジタルトランスフォーメーション)、サステナビリティといったテーマが次々にビジネスの主舞台に上がる中、過去の知識だけでは通用しなくなっています。MBA取得そのものが終点ではなく、取得後も学び続け、ネットワークを活用し、実践経験と知を更新し続けることが問われています。こうした姿勢を身につけている人材こそが、変化の波を乗りこなすことができるのです。
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5.皆さまへのメッセージ
最後に、会員の皆さま、これから学ばれる皆さま、そして当協議会を志してくださる皆さまへ申し上げます。
MBA取得を通じて得られるものは、単に知識や称号だけではありません。むしろ、それらを活かして“行動”し、“価値を創造”するところから、真の価値が始まります。現在、皆さまが立っておられるその場所から一歩を踏み出し、異業種・異文化・異地域の志ある学び手とつながりを持ち、議論と協働を通じて新たな地平を共に切り開いていきたいと思います。
当協議会は、そうした皆さまの挑戦を支えるプラットフォームであり続けます。共に学び、共に創り、共に成長する仲間として、私は代表理事として全力を尽くしてまいります。
末筆ながら、今後の皆さまのご活躍とご健勝をお祈り申し上げ、就任のご挨拶といたします。
敬具
一般社団法人MBA推進協議会
代表理事 城戸崎 祐馬

